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INTERVIEWインタビュー

コミュニケーションで社会は変わる。豊かな人生をデザインする人間関係のつくりかた

澤円さわ・まどか
株式会社圓窓代表取締役/元日本マイクロソフト株式会社業務執行役員/武蔵野大学専任教員/琉球大学客員教授/株式会社日立製作所Lumada Innovation Evangelist/SBテクノロジー株式会社社外取締役

企業で働くビジネスパーソンは、人生の多くの時間を「勤務時間」に費やすこととなる。そのため、ストレスのない快適な職場環境、とりわけ人間関係が心身の健康だけでなく、QOLにおいても重要だといえるだろう。会社を居心地のいい場とし、ひいては豊かな人生を実感するためには、どのような意識とコミュニケーションで人間関係を考えていけばいいのだろうか。元日本マイクロソフト株式会社の業務執行役員で、現在は株式会社圓窓の代表取締役を務める澤円氏に、企業の視点、従業員の視点の双方から伺った。

構成/岩川悟 取材・文/吉田大悟 写真/石塚雅人

「人間関係のいい会社」は、すべての従業員の意識で創り出す

——ビジネスパーソンが満足度高く幸せに働くためには、仕事内容だけでなく「職場の環境」も重要かと思います。いま、企業に求められる職場環境や人間関係のあり方は、どのようなものでしょうか。

澤円:インターネットの話になるのですが、いまは「Web3.0(ウェブスリー)」の時代だといわれています。ホームページを作成する人と、そこに来る人のあいだで情報が一方通行だったWeb1.0から、SNSなどのプラットフォームに集まって双方向の情報交換を行うWeb2.0を経て、現在は大手のプラットフォームが情報を独占するのではなく、個の集合体としてのコミュニティに分散される。これがWeb3.0の世界です。

この世界観の変化は、リアルな場所においても同様だと考えられます。かつて、ひとつの会社で定年まで働き続けることが当然だった時代には、その企業内の常識や価値観がすべてでした。でもいまは、SNSで他の企業の文化や働き方を知り、自社と比較することも容易ですよね。

また、若い層を中心に副業をしたり、複業として複数の会社で働いたりするビジネスパーソンも増え、企業はかつてのように、従業員を同質化させる中央集権的な統治ができる場ではなくなっています。つまり、多様な価値観を持った「個」の従業員がいて、彼ら彼女らが共生できる企業に人が集まっているということです。

その変化を踏まえると、いかに多様な価値観を持つ従業員が「自分はここにいていいんだ」と思える環境整備をできるか否かが、企業の課題になっているわけです。しかし、これはわたし個人の意見ですが、職場環境のなかでも人間関係における整備を誰が行うかというと、経営層でも人事総務でもなく「すべての従業員」だと思っています。

——企業側の働きかけはあるとしても、最終的には「従業員の意識の問題」ということでしょうか?

澤円:そうです。すべての従業員に「わたしはこの会社にいていいんだ」と思う権利があるのです。その代わりに、「ほかの人もその権利を有している」ということを、すべての従業員が理解し尊重すること。その理解と尊重に基づくコミュニケーションをみんなができれば、会社はとても居心地のいい場所になるはずです。

良質なコミュニケーションというと難しく考えがちなのですが、シンプルに考えてみてはどうでしょうか。特定の人と気が合わなくても、その人の居場所を奪ったり、居心地を悪くしたりする必要はなく、相手を否定せず最低限の関わりをしていればいいだけです。もちろん、自分だって誰かに追いやられる必要などありません。それだけで、会社の人間関係はずいぶんラクになります。価値観や考え方、趣味嗜好が異なる相手でも、まずは身近な人間から意識的に尊重してみると結果はかなり変わってくるはずです。

——それでも、「この仕事にふさわしくない」とか「当社の人間はこうあるべきだ」と排他的な考え方を持っていて、他者の存在を認められない人も一定数いますよね。

澤円:そういう人の多くは、自分の心と肉体の外にあるものにプライドを持っている人です。例えば、肩書きや職種、会社のブランドがその典型例です。彼ら彼女らの人生を豊かにしている価値は、名刺にひとことで書けるような表面的なものではないはずですよね? その経歴を築き上げてきた努力や経験、能力など内面にこそ価値があるはずなのに、錯覚してしまっているのです。それでは、自分に対するまわりの人間の評価も信頼することができず、歪みに苦しむことになってしまうでしょう。

もし、あなたにその傾向があるなら、自分のなかにある価値について、一度じっくり考えて棚卸することをおすすめします。また、そういう人があなたの人間関係のネックになるのなら、業務上の必要最低限の接触にとどめて、なるべく関わらずにいるのが賢明でしょう。

「ギブファースト」の精神で、互いに助け合う関係性を育む

——社内の人間関係に支障があるわけではないけれど、つながりが希薄で孤独を感じてしまう。こういった気持ちの面で物足りなさがある場合、どのようなアクションを起こすといいと考えられますか?

澤円:人間関係が希薄である原因は、多くの場合「助けてほしい」が素直にいえないことにあると見ています。同僚と世間話や仕事のコミュニケーションはできているのに、どこかビジネスライクであって、いまいちつながりを感じられない。だから、仕事でもプライベートでも、困ったときに苦しみをひとりで抱えてしまうのです。

その状況を打破するには、やはり自己開示をしていくことが大切です。日頃から自分の弱いところや苦手とすることを、周囲の人に知っておいてもらうようにしましょう。その状況を構築できれば、いかにもあなたの苦手そうな仕事があったときに、周囲の同僚も「大丈夫?」「手伝おうか?」と気にかけてくれるし、サポートだってしてくれます。周囲が助けてくれないのは、冷たいわけでも嫌われているわけでもありません。単に、あなたに関する情報が不足しているのです。

いま、あなたが抱えている困りごとも、どんどん情報共有してまわりに助けを求めましょう。解決策を出してもらったり、手伝ってもらったり、あるいは慰めてもらったりすることは、まったく恥ずかしいことではありません。そういう助け合いの関係性ができると、問題が解決するだけでなく心理的に安心感が生まれます。そして、「支えてもらえる」という実感を得られることで、気持ちは明るくなるし、チャレンジする意欲も湧いてくるのです。

——これは日本人特有の気質かもしれませんが、困難な状況でも自分だけで解決しようとする人が多いように感じます。そこから問題が大きくなり、結果としてその個人だけでなく、組織にも迷惑をかけてしまうといったことはよくあるように思います。人に助けを求めることがどうしても苦手な人は、どうしたらいいでしょう?

澤円:助けを求めることが苦手な人は本当に多いですね。そんな人には、「ギブファーストの精神を持とう」と伝えています。言い換えると、まずは自分が積極的にお節介を焼いてみればいいのです。誰かが困っているときに作業を手伝ってみたり、話を聞いたり、得意な人を紹介してあげたりして、周囲の人たちの課題を解決してあげるのです。

すると、自分が課題にぶつかったり、困りごとが生じたりしたときに気づいてもらえる可能性が高まります。誰だって恩があれば好意を持つし、自分も力を貸したいと思いますから、「今日、なんとなく顔色悪くない?」とか「いま考え込んでいたでしょ? なにか困ってる?」とより積極的に気にかけてくれるので、悩みを相談しやすい環境を自分でつくり出すことができます。

助けることも、助けられることも、成功体験を積むことでどんどんお互いが積極的になることができて、それが良好な人間関係と仕事・プライベートにおけるQOLの向上につながっていきます。わたしの場合であれば、「自分ができないことはやらない。その代わり、自分ができることなら責任を持って取り組むし、みんなの力になろう」と明確に線引きしています。「自分には手に負えないな」と思うことがあるとすぐ人に相談するので、目の前の課題について自分がボールを抱えていることはほぼありません。ほかに得意な人や、その分野のプロフェッショナルがいるなら、その人にやってもらったほうが絶対に早いし、クオリティも高いものになることはいうまでもありません。

相手を否定せず、肯定する「フォロワーシップ」で人生はさらに豊かになる

——お話を伺って、社内の円滑な人間関係や居心地のよさをつくり出していくためには、経営陣やマネージャーに委ねるばかりでなく、自らのコミュニケーションこそが重要なのだと実感しました。

澤円:なにかを手助けしてもらったことに対して、しっかり「ありがとう」とお互いに言い合えることが人生の豊かさになっていくし、そういう機会の多い組織をつくることが「健康経営」にも直結していくと思います。さらにいえば、「ありがとう」を言い合える人間関係を、会社の外にも積極的につくっていくといいですよね。あえて強めにいえば、「人間関係が勤務先のなかにしかないのは、人生の損失」とさえ思います。

複業や転職をすることでも人間関係は増えますが、PTA活動や地域の活動、コミュニティサービスへの参加でもいいので、自分の場所をいくつも持つことです。多くのコミュニティに参加することで、考え方のものさしが増えて、それまで価値のわからなかったことが「すごいことだ」「面白いな」「素敵だな」と思えるようになります。

そのような体験を繰り返すことで、他人の多様な面白さやいいところに気づきやすくなるのです。人となりや考え方に対して肯定的に接することができ、心から「いいね」と賛同したり褒めたりできるようになります。

冒頭で、「他人の『ここにいていい権利』を尊重しよう」とお伝えしましたが、まさに肯定的に接し、相手を否定しないことが、その具体的なアクションのひとつです。みんなと考え方が違っても、それこそ非現実的なほどユニークなアイデアであっても、それを頭ごなしに否定せず「それ、面白いね!」「いいね!」と肯定する。そのマインドを持てると、人生はさらに豊かになるはずです。

ここで重要なのは、独創的なアイデアがときにイノベーションの源泉になるということ。また、奇抜な考え方を持つ人のなかには、将来的にベンチャー起業家として、世の中を変えるチャレンジに乗り出す人も出てきます。

そんなイノベーターにとってもっとも重要な存在は、「最初に自分を肯定してくれた人」なのです。これを「フォロワー」と呼び、フォローする気持ちを持つことを「フォロワーシップ」と呼びます。多くの場合、イノベーターの発想は斬新なので価値がわかりづらく、賛同者が現れにくい傾向にあります。そのまま誰も賛同しなければ「変な人」で終わってしまいます。しかし、自分の考えに賛同する人がひとり現れることで、その存在が呼び水となって、ふたり、3人……と関心を持つ人が集まっていき、大きな流れを生み出していきます。だから、イノベーターにとっては「最初の賛同者」であるフォロワーこそが重要であり、生涯つきあいたくなるような、かけがえのない存在となるのです。そんな人とのつながりがあることで、さらにあなたの人間関係は刺激的で面白いものになり、豊かな人生を手に入れることができるでしょう。

澤円さわ・まどか
株式会社圓窓代表取締役/元日本マイクロソフト株式会社業務執行役員/武蔵野大学専任教員/琉球大学客員教授/株式会社日立製作所Lumada Innovation Evangelist/SBテクノロジー株式会社社外取締役

1969年、千葉県生まれ。立教大学経済学部卒業後、生命保険会社のIT子会社を経て1997年にマイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に入社。情報コンサルタント、プリセールスSE、競合対策専門営業チームマネージャー、クラウドプラットフォーム営業本部長などを歴任し、2011年にマイクロソフトテクノロジーセンターセンター長に就任。業務執行役員を経て、2020年に退社。2006年には、世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみビル・ゲイツ氏が授与する「Chairman's Award」を受賞した。現在は、自身の法人の代表を務めながら、琉球大学客員教授、武蔵野大学専任教員の他にも、スタートアップ企業の顧問やNPOのメンター、またはセミナー・講演活動を行うなど幅広く活躍中。2020年3月より、日立製作所の「Lumada Innovation Evangelist」としての活動も開始。

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澤円さわ・まどか
株式会社圓窓代表取締役/元日本マイクロソフト株式会社業務執行役員/武蔵野大学専任教員/琉球大学客員教授/株式会社日立製作所Lumada Innovation Evangelist/SBテクノロジー株式会社社外取締役

1969年、千葉県生まれ。立教大学経済学部卒業後、生命保険会社のIT子会社を経て1997年にマイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に入社。情報コンサルタント、プリセールスSE、競合対策専門営業チームマネージャー、クラウドプラットフォーム営業本部長などを歴任し、2011年にマイクロソフトテクノロジーセンターセンター長に就任。業務執行役員を経て、2020年に退社。2006年には、世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみビル・ゲイツ氏が授与する「Chairman's Award」を受賞した。現在は、自身の法人の代表を務めながら、琉球大学客員教授、武蔵野大学専任教員の他にも、スタートアップ企業の顧問やNPOのメンター、またはセミナー・講演活動を行うなど幅広く活躍中。2020年3月より、日立製作所の「Lumada Innovation Evangelist」としての活動も開始。

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