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INTERVIEWインタビュー

学費や老後資金はどう捻出する? 子育て世代が知っておきたい資産形成とライフプランの重要性

飯村久美いいむら・くみ
ファイナンシャルプランナー/FP事務所アイプランニング代表

「教育費は子どもひとりあたり1,000万円かかる」「老後の資産は年金とは別に2,000万円が必要」など、将来の支出の多さと危機感を煽る情報が目にとまる。物価は上昇し、賃金は上がらないなかで、「本当にそんな費用を用意できるのだろうか?」と不安を感じる人も多いだろう。「不安を感じるよりも、先々を見越して具体的にどのような準備をするのかを考えるために、ライフプランを立てましょう」と語るのは、ファイナンシャルプランナー(FP)の飯村久美氏だ。ライフプランの考え方と、いまから取り組むべき将来の資金づくりについて聞いた。

構成/岩川悟 取材・文/吉田大悟 写真/塚原孝顕

ライフプランを立て、いまから将来に向けた準備をする

——子育て世代は、現在の生活にお金がかかる一方で、将来の教育費や自分たちの老後資金も計画する必要があります。将来かかる費用をどう見通すのがいいでしょうか。

飯村久美:子育てをされている人、あるいは、これから妊活に取り組む人もそうですが、まずは「ライフプラン」をしっかり立てることをおすすめします。「将来に必要なお金」といいますが、それを準備するのは「いま」なのです。つまり、先々の支出を見越して、積み立てで準備をする必要があるということです。その見積もりを立てるには、ライフプランを立て、先々にどのような支出があるのかをはっきりさせなければなりません。

わたしのようなFPにライフプランを相談するのもいいのですが、自分で考えてみることが第一歩です。「ライフプランを自分でつくるのは難しそう」と思うかもしれませんが、そんなことはありません。まずはざっくりでいいので、シンプルに考えてみましょう。

——とりあえずは概算でもいいので、ライフイベントにかかる費用をあてはめてみればいいでしょうか?

飯村久美:そうですね。例えば子育ての場合、将来の必要経費すべてを想定することは無理がありますから、学費など大きい支出だけで構いません。年表の形式で年代ごとにやりたいこと、起こり得ることを書き出していきましょう。

子どもの学費の場合、中学校まで公立に通うことを前提とすれば、誕生から15年後に高校入学、18年後に大学や専門学校入学で大きな支出の可能性があります。ここでは、仮に中高は比較的お金のかからない公立を前提とし、18年後に必要な私立大学の学費を仮に400万円で想定してみます。400万円を18年で割れば年間約22万円の貯金が必要で、月々約1.8万円の積み立てが必要だとわかります。

また、6年後に250万円の車を買う予定なら、毎月3.5万円の積み立てになります。さらに、夫婦で世界旅行をするのが夢なら、500万円ほどかかるとみて20年間で月々約2.1万円の積み立てを想定するのです。

老後資金については、公的年金の将来の支給額見込みがハガキなどで送付されているはずです。また、勤めている会社の規約に計算方法の記載があれば、退職金のシミュレーションも可能です。そのうえで定年までに貯めておく資産を決めましょう。仮に老後資金が2,500万円必要だとして、退職金1,000万円と別に1,500万円を35年後に用意しておくとすれば、月々3.6万円ほどの積み立てが必要といった具合です。

概算ですが、これだけで月々11万円の将来に向けた積み立てが必要であるとわかります。これを、現在の夫婦の手取り月収から差し引き、残った金額で家計のやりくりを考えていくのです。

一旦、概算を出すことで、月々の支出のリアリティを感じられるはずです。そのうえで、高過ぎるライフイベントの支出を調整したり、さらに細かく必要な支出を考えたりして精度を上げてみましょう。子どもが大学に入る前に、塾の費用なども必要になるかもしれませんね。

ライフイベントにかかる費用の目安は、日本FP協会のホームページに掲載されています。こうした参考情報を活用して、可能な範囲で深掘りしてください。

●日本FP協会 https://www.jafp.or.jp/know/lifeplan/indication/

——月々の積み立ては、すべてを貯蓄にする必要はありませんよね?

飯村久美:そのとおりです。子どもの大学費用なら、貯蓄よりも学資保険に加入すれば、死亡や高度障害状態などの万一に備えた保障があり、生命保険料控除などの税制優遇も受けることができます。老後資金なら「NISA(つみたて投資枠)」や「iDeCo」を活用すれば、掛金以上のリターンを得られる可能性があります。ひとまず貯蓄ベースで月々の積み立て必要額を弾き出すことで、保険や投資、年金制度への掛金の目安が見えてくるはずです。

ただし、積み立ての設定にあたって、まず生活防衛資金(病気や失業などで収入が途絶えるリスクに備える資金)の確保を優先してください。「NISA(つみたて投資枠)」は途中で積み立ての停止もできますし、保有している投資信託や株式を売却して現金化することもできますが、「iDeCo」では拠出額の変更・停止はできるものの、原則として60歳まで解約ができません。収入の3カ月〜6カ月分の現金を貯蓄したうえで、月々の積み立ての設定を行うことをおすすめします。

——どうすれば必要経費を見積もれるのか、おおよそ理解できました。ただ、どうしても「自分では難しい」という場合は、専門家の意見も必要になると思います。ライフプランについて、飯村さんのようなFPに相談するメリットはどこにありますか?

飯村久美:ライフプランの精度が高くなる点は確実なメリットです。自分で立てたプランでは、ライフイベントにおける支出が相場に見合わなかったり、イベント自体が抜け落ちていたりします。また、将来的な賃金上昇や物価上昇を見越すなど、不確実な未来への対処は専門家の出番だと思いますね。

そのほか、わたしの場合は第三者としてご夫婦の仲裁に入ることが多いです。なぜなら、ライフプランで揉めてしまうケースがあるからです。子どもの進学先などの支出や、節約でも夫婦の利害が衝突しがちです。そうしたとき、中立的な意見や、一般的な家庭の支出のあり方などを伝えられるので、スムーズに話がまとまりやすくなります。より詳細にライフプランを策定したい、または話がこじれそうなときはFPに相談してみるといいかもしれません。

意志の強さに頼らない「節約の仕組み」をつくる

——ライフプランを立てて、月々の積み立て額を算出した結果、現在の生活を圧迫する可能性もあると思います。その場合の対策は、やはり節約になりますか?

飯村久美:片働きを共働きにするなど、収入アップの検討ができるのならいいのですが、それが難しい場合は節約が求められるでしょう。そのためのテクニックの一例をお伝えします。

最初に手をつけるべき支出は、「固定費」です。固定費のなかでも、もっとも支出が大きいのは住宅費ですよね。賃貸であれば、いまの住まいが本当に自分たちに見合っているか、家賃の低い場所に引っ越すことはできるかを、フラットな状態で検討してください。

また、持ち家で住宅ローンがあるなら、より金利の低い金融機関で借り換えの検討をするのもいいでしょう。借り換えにはそれなりの手数料がかかるため、それを踏まえてもメリットが生じるか、金融機関にシミュレーションを依頼してください。そのほか、基本的なチェックポイントは以下のとおりです。

  • ガスと電気の料金プラン、契約する会社の見直し
  • 携帯電話の格安キャリアへの変更
  • 過剰な保障内容になっている生命保険の見直し
  • 不要なサブスクリプションサービスの解約 など

固定費は一度見直してしまえば、以降はなにもしなくても節約効果が継続するため、ストレスも少ない点がメリットです。

——「変動費」(食費、日用品費、娯楽費など)の節約についてはいかがですか?

飯村久美:仕事や子育てなど、日々の忙しい時間のなかで、食費などの変動費の節約を意識するのは大変だと思います。ですので、なるべく自動的に節約できる仕組みづくりが大切です。

わたしがおすすめするのは、1カ月の食費とお小遣いの予算決めですね。このふたつは、使おうと思ったら際限なく使えてしまう費目なので、やはり引き締めが必要です。理想をいえば、その予算に基づいて家計簿もつけてほしいのですが、忙しいなかで仕事を増やすことに抵抗がある気持ちも理解できます。近頃では、家計簿アプリで項目ごとの予算設定ができ、残り金額を表示してくれる機能もありますので、家計簿が嫌ではない人は試してみる価値は十分にあると思います。

家計簿を使わないのであれば、月間予算をさらに週間予算に細分化し、その金額だけを持ち歩くようにしましょう。例えば、食費の予算を月5万円に設定したなら、週の予算は1万円です。5週目は2、3日しかありませんから、5,000円程度の予備費があるものとします。週のはじまりに1万円を食費用の財布に入れる、または食費は電子マネーやスマホのバーコード決済を使うことにして1万円をチャージしておくのでもいいでしょう。

——お小遣いは、また別の財布や決済アプリで管理するわけですね。

飯村久美:そういうことです。分けて管理することで予算の残金が見えるので、まだ週の半ばなのに3割しか残っていなかったら自然と支出をセーブしようとしますよね。週ごとに予算の帳尻を合わせて月間予算をキープしていくのです。なお、お小遣いは夫だけを対象にしがちですが、必ず夫婦それぞれで設定しましょう。

公的補助の活用でライフイベントの支出は軽減できる

——節約以外で支出を抑える方法はありますか?

飯村久美:現時点の支出を抑えるものではありませんが、今後のライフイベントでかかる支出に関しては、国や自治体の公的補助を利用することが可能です。例えば、東京都では2024年度から私立を含む高校と都立大学などの授業料が実質無償化されており、しかも所得制限はありません。この制度は今後、他の道府県にも波及する可能性があります。

また、自治体ごとに子育て支援や住宅購入補助などの各種支援制度が用意されていることもあるので、自治体の広報誌やホームページを必ずチェックしましょう。民間が提供する公的補助のまとめサイトなども情報収集に役立ちます。国や都道府県レベルの公的補助については、企業が情報収集して、従業員に共有してあげてもいいかもしれません。

——ここまで「安心して人生を送る」ための、いわば「守りの手段」としてライフプランや節約の知識を伺いましたが、人生をより充実させることにもつながりますか?

飯村久美:子育て中の人にも「人生で叶えたいこと」はありますよね。独立したいとか、カフェを開きたいとか、その夢を実現するならいくら必要なのかを試算して、ライフプランに盛り込んでみましょう。漠然として具体化しなかった夢も、積み立てや節約を工夫すれば現実にできるかもしれません。

また、そういった夢はなくとも、子どもたちの将来や夫婦の幸せを見通すことで、いま自分が一生懸命に働く意味を再認識するきっかけにもなると思います。働く意味を持てれば、モチベーションも変わっていい仕事ができますよね。節約も大事ですが、充実してしっかり働くことが、資産形成のうえでも、ウェルビーイングのうえでも大事なことだと、わたしは考えます。

——最後に、ライフプランやお金に関すること、子育て世代への生活支援について、人事・総務がサポートするとすれば、なにをしたらいいと思いますか?

飯村久美:わたしが知る、子育て世代への充実した福利厚生で知られる企業では、最初に従業員の声を集めたそうです。人それぞれ事情も違うため、抱えている悩みも異なるのも当然です。「どのような制度やサポートをしてほしいか」「今後の人生で、どのようなことに不安を感じているか」をリサーチすることで、優先課題が見えてくるのではないでしょうか。

わたしはFPとして、ライフプランの立て方や資産形成の意識づけを伝えることもある一方、節約術に関するアドバイスなども行っています。リサーチの結果、具体的にどのような講演テーマなどで情報提供をするか迷った際は、ぜひご相談ください。

飯村久美いいむら・くみ
ファイナンシャルプランナー/FP事務所アイプランニング代表

1972年、埼玉県生まれ。学習院大学法学部を卒業後、1995年に損害保険ジャパン(旧安田火災海上保険株式会社)へ入社。在籍中の1998年にファイナンシャルプランナー(FP)の資格を取得する。退職後、自らの経験から、ファイナンシャルプランは「生活を守る手段」であるとともに、「やりたいことや夢を叶えるために必要なツール」と痛感。「個人の夢を応援し、家計を日本から元気に」という想いで、2006年にFP事務所を開業。手がけた家計相談は1,100世帯を超える。わかりやすく親しみやすい話しぶりから、テレビやラジオ出演、セミナー講師として幅広く活躍中。

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飯村久美
飯村久美いいむら・くみ
ファイナンシャルプランナー/FP事務所アイプランニング代表

1972年、埼玉県生まれ。学習院大学法学部を卒業後、1995年に損害保険ジャパン(旧安田火災海上保険株式会社)へ入社。在籍中の1998年にファイナンシャルプランナー(FP)の資格を取得する。退職後、自らの経験から、ファイナンシャルプランは「生活を守る手段」であるとともに、「やりたいことや夢を叶えるために必要なツール」と痛感。「個人の夢を応援し、家計を日本から元気に」という想いで、2006年にFP事務所を開業。手がけた家計相談は1,100世帯を超える。わかりやすく親しみやすい話しぶりから、テレビやラジオ出演、セミナー講師として幅広く活躍中。

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