時間を制する人は習慣化を制す。「続けられない人」から「続けられる人」になるために
「1時間早く起きて資格取得のための勉強をしよう」と思っても意志が弱くて起きられない。「健康のために運動をしよう」と思っても疲れを理由に三日坊主で終わってしまう。そんな新しい習慣を実現するには、意志の問題とスケジュール管理の問題をクリアする必要がある。習慣化のプロとして企業や個人相手のコンサルティング活動を行っている古川武士氏に、習慣化のための極意を伺った。
構成/岩川悟 取材・文/吉田大悟 写真/石塚雅人
新しいことをはじめるには、「なにかをやめる」ことが起点となる
——キャリアアップのために「英語の勉強をしよう」、健康のために「運動をしよう」、あるいはプライベートを充実させるために「趣味を持とう」と思っても、結局、忙しさや面倒くささに抗えず、続かない人は多いと思われます。「より良い人生にしたい」と思う自分の意志を貫くためのアドバイスをいただけますか。
古川武士:一度決めたことを意地でも守れる意志の強い人もなかにはいますが、人間というのは変化を嫌い、安定している状態を変えたがらない生き物ですから、「新しい習慣づくり」が苦手なのはあたりまえのことです。
決めたことが続けられないと、「自分は意志が弱い」とか「決意が甘い」といって精神論で自分を追い詰めてしまいがちですが、それではなにも解決しません。「ただ思っているだけでは続けられない」という前提に立ってしっかりとした準備を行い、自分で自分をサポートしてあげることが大切なのです。
——どんな準備が必要ですか?
古川武士:まず準備することは、「時間」です。わたしたちの生活は、時間があるようでありません。仕事が終わって帰宅したら、少しは自由に使える時間があるような気がしますよね。でも、子育て世代の方であれば子どもとコミュニケーションを取る時間もありますし、家事だってあるでしょう。それだけでなく、パートナーから相談があれば、その話につきあっているだけであっという間に1日は終わってしまいます。
一人暮らしの方だって同じでしょう。同僚や友人から飲みに誘われたり、電話がかかってきたり、仕事の参考に観なければならない動画があったりして、暇な時間というのは探すほうが難しいわけです。そうしてるうちに、「今日も時間がなかった」と後悔しながら就寝の時間がやってきます。ここでいいたいのは、いまの生活パターンでは時間がすでに埋まっているのに、そこに新しい用件を入れようとするから、習慣化はうまくいかないということです。
だから、新しい習慣をはじめるには、まずなにかをやめましょう。例えば、30分の運動習慣を身につけるのであれば、現在の生活から30分なにを引き算するのか決めるのです。パートナーと話し合って家事の分担をひとつ調整するとか、飲みにいく回数を減らす、あるいは残業を極力しないなど、時間を確保することが習慣化のスタートであり、起点になります。
——例えば、企業側が従業員にスキルアップのための学習を指示する場合も、「時間の確保」を同時に行うことが重要となるでしょうか?
古川武士:企業側からスキルアップを依頼するのですから、すべて従業員任せにするべきではありません。往々にして精神論で「なんとか仕事の合間に時間をつくってほしい」という話になりがちですが、それよりも、仕事量そのものを減らしてあげたり、会議室を確保して業務に追われない時間をつくってあげたりするなど、なんらかの工夫が必要になるでしょう。
振り返りの時間を設けて、習慣化を自分でサポートする
——時間を確保する大切さは理解できましたが、誰もが抱く「面倒に感じる気持ち」をどう扱えばいいでしょうか?
古川武士:「小さくはじめる」ことがなにより大切です。先にも述べたように、新しい習慣づくりによって現状を変えることは、精神的なストレスが伴います。すぐに結果を出そうと思って、いきなり「英語を毎日1時間やるぞ!」と意気込むと、ストレスが大きくて気分が乗らず、三日坊主で終わってしまいます。まずは無理なく、「最初の1週間は電車のなかで単語帳を開いてみよう」など、小さな負荷からはじめて気持ちや身体を慣れさせ、徐々にハードルを上げていくといいでしょう。筋トレだってそうですよね? いきなり高負荷のトレーニングからはじめると、つらくて続きません。
また、帰宅後の夜の時間帯を我慢して時間を確保するのが苦しいのなら、まずは出勤前の朝の20分を使ってカフェに立ち寄り英語の勉強をしてみるなど、可能な限り負担がないかたちでスタートするといいと思います。
——先ほどおっしゃっていた「自分で自分をサポートする」ことについては、どんなことに取り組めばいいのでしょうか?
古川武士:自分で反省会を行って、フィードバックをしてあげるといいですね。わたしはそのためのシステムを「GPS」と呼んでいるのですが、「Good(よかったこと)」「Problem(問題点)」「Solution(解決策)」の3つを、週に1回ノートなどに書き出してみるのがおすすめです。
例えば、「英語の勉強習慣」であればこんな具合です。
- Good(良かった点):今週は3日、計3時間の勉強時間を確保できた
- Problem(問題点):仕事で疲れた日は、それなりに時間があってもやる気になれない
- Solution(解決策):そういう日は早めに寝て、朝の時間で勉強しよう
これくらいシンプルな内容で構わないので、週に1回の振り返り時間を設けてください。この場合、「英語の勉強の内容」ではなく「勉強習慣」についての振り返りである点がポイントです。振り返りを行うと、問題点を洗い出して改善の機会をつくることができます。1年は52週ありますから、それぞれの週で振り返りを行うだけで1年間に52回の改善のチャンスが得られるということです。そうすることで、意識を切らさずに継続がしやすくなります。
——「GPS」による振り返りは、いろいろな習慣化に活用できそうなノウハウですね。
古川武士:あらゆる新しい習慣づくりに応用できます。また、「仕事の取り組み方を変える」ことも習慣化ですから、仕事の生産性向上やコントロールにも役立つはずです。例えば、「残業を減らす習慣」をつくりたいのなら、ただ漠然と「早く終わらせなきゃ」と思っているだけでは一向に改善しませんよね? そこで、毎週の振り返りを行うのです。
- Good(良かった点):18時に会社から出られた日は、久々に家族そろって食事ができた
- Problem(問題点):夕方になってメールで仕事の依頼が舞い込んで帰れなくなりがちだ
- Solution(解決策):18時で区切って、緊急性が高くなければ翌日の朝に対応する
こうやって、「Good」で「早く帰ると、どんないいことがあるか」をしっかり自覚してモチベーションを高め、「Problem」でいま抱えている問題を具体的に洗い出し、「Solution」で解決するために仕組みをつくっていくのです。それを毎週きちんと行なっていけば、残業の改善は着実に進んでいくと思います。
もっとハードに自分を管理しようと思えば、毎日、業務日報のように振り返ることもできます。ただ、あまり負荷が高いと振り返り自体がストレスになりかねません。まずは週1回の実施がいいでしょう。
時間をコントロールすることは、人生の主導権を取り戻すこと
——古川さんは、数々の企業で「習慣化」や「生産性向上」などの講演・コンサルティングを行っています。ビジネスパーソンが、これから身につけたほうがいい「仕事やキャリアに役立つおすすめの習慣」はありますか?
古川武士:具体的になにが役立つかは、仕事内容や人の特性によってそれぞれ異なるので、「なにをしたほうがいいか」は一概にはいえません。ただ、「時間管理」という概念が漠然としているのなら、どんなことでもいいので、「仕事を早く終わらせる理由」を持ったほうがいいと思います。
あるいは、仕事が忙しく、日々残業をすることが前提だとしても、毎日「退社時間を決める」ことは絶対に行ったほうがいいでしょう。要は、時間に対して自分が主導権をにぎってコントロールすることこそが重要なのです。
退社時間を自分で決めないと、次々と降りかかってくる仕事にひたすら対応するだけになってしまい、退勤後のスケジュールを立てる余裕もなく、慌ただしく毎日が過ぎ去っていくだけです。それが常態化しているので、プライベートで新しいことをはじめる気になれず、たくさんのことをあきらめてしまう。結果として、永遠に仕事ばかりしている方も多いのではないでしょうか? それはつまり、「自分の人生の主導権」すら、仕事に明け渡してしまっているようなものです。
もしあてはまるのであれば、週に1回、自分が楽しみにしている活動のための時間を設けることをおすすめします。ジムに通うのでも、コミュニティに参加するのでも、なんでも構いません。それが水曜の20時からなら、水曜はなんとしても19時までに会社を出ることになりますよね。
そうなると、「19時に退勤するために、具体的になにをしたらいいか」と朝から考えて行動することがセットになります。その成果を、GPSで振り返って改善してみましょう。それができれば、ほかの曜日も自分で退勤時間を決めて、その達成のために考えながら行動する習慣が身についていきます。
自分で仕事の時間をコントロールできる自信が身につけば、友人と会う約束や、自分のやりたいことを安心してスケジューリングすることができます。それにより、仕事の生産性も高まるし、キャリアアップへの自己投資やプライベートの充実を図るアクションも起こすことができ、人生の充実度が確実に変わっていくと思います。