INTERVIEWインタビュー

生活習慣病を防ぐ。40代からの「生活改善アクション」習慣化のポイント

古川武士ふるかわ・たけし
習慣化コンサルティング株式会社代表取締役/米国NLP協会認定NLPマスタープラクティショナー

健康について考えるうえで、40歳はひとつの節目といえる年齢だ。40代になると、メタボリックシンドロームに着目した特定健診がはじまり、生活習慣病予防への意識づけが欠かせなくなる。また、介護保険の加入が40歳からなのも、親世代の介護がはじまる世代というだけでなく、自分自身もなんらかの病気によって要介護状態となる可能性のある年代になったことを示している。しかし、予防医療の観点からアクションを起こそうとしても、生活習慣の改善は簡単ではない。そこで、悪い習慣を止め、新たな習慣を自分に根づかせる「習慣化」のプロである古川武士氏に、「生活改善の習慣化」についてのアドバイスを聞いた。

構成/岩川悟 取材・文/吉田大悟 写真/石塚雅人

健康診断のほかにも、短期スパンで「健康」を考える機会を設ける

——「生活習慣病」という言葉どおり、生活習慣の改善が心身のパフォーマンスアップと疾病リスクの低減には欠かせません。古川さんの専門領域である「習慣化」の観点から、生活改善についてのアドバイスをお願いします。

古川武士:そのようなニーズが増えていることもあり、2023年に内科医の先生とわたしの習慣化のノウハウを掛け合わせた実証実験を行い、個人向けの「健康習慣改善プログラム」を提供するコミュニティを立ち上げました。まだ準備段階ではあるのですが、その実験のなかで得た知見も踏まえて、ここではそのコミュニティの取り組みをお話したいと思います。

コミュニティの立ち上げのきっかけは、わたしがコンサルティングを行う各企業でも、従業員の心身の健康状態が重要な経営課題となっていたことにありました。みなさんも思いあたるかもしれませんが、「健康診断の前後は運動をはじめたり、食事に気を遣いはじめたりするけれど、結局は続かない……」ということが多く、ほとんどの人は生活改善を習慣化できないのです。

会社の健康診断が健康について考える唯一のきっかけであると、1年に1回しか危機感を持ちません。それなら3カ月スパンなど、より短期で定期的に健康について振り返る機会を設ければ、効果的な取り組みになるはずです。そのうえで、具体的な医師の改善指導や、改善行動の習慣化を個人にコンサルティングしていくことが、このコミュニティでの取り組みです。

——その考え方は、企業が目指す健康経営の実践においてもヒントになりそうなお話だと思われます。

古川武士:そう思います。企業でも年1回の健康診断を行うだけでなく、人事総務の担当者が積極的に音頭をとって、健康について考えるセミナーやイベントなど、定期的な機会を設けてリマインドしていくことが大事なのだと考えます。あるいは、チャットツールでも直接対面でも構わないのですが、健康について従業員同士で日常的に情報共有やディスカッションする場を設けるとよりいいでしょう。

コミュニティの実験の一環では、被験者15人程度のグループで生活改善についてのディスカッションや、成功事例などについての情報共有をしてもらいました。5人程度より、それくらいの人数で情報共有したほうが、やはり多様な意見が出てきます。継続が苦手な人の体験談も出てくるので、それらの話により「わたしにもできるかもしれない」と感じられるヒントを得やすいようです。また、実際に刺激を得た人が多かったですね。

企業における健康経営の取り組みとしても、健康や生活習慣について情報共有できる場を用意すると、具体的な生活改善のアクションにつながるきっかけを生み出せるかもしれません。

同じ課題を持つグループで、生活改善の意識を高め合う

——生活改善の習慣化で、そのほかにも企業の立場から従業員に提供できることはありますか?

古川武士:生活習慣の改善では、「食事」「運動」「睡眠」「ストレスの緩和」の4つがメインになると考えます。その改善をただ呼び掛けるだけでなく、課題ごとにグルーピングしてコミュニティを形成してみるのはいかがでしょうか? 例えば、「睡眠」が課題になっている従業員同士で5人程度のグループをつくって、定期的にミーティングをするような枠組みを設けるのです。

気持ちがわかる人同士で、生活改善のアドバイスや情報交換をすることで、生活改善を継続させるモチベーションを維持できるはずです。さらに、その行為はモニタリングの効果もふくんでいますから、一種の強制力にもなるでしょう。運動だったら、「週末に一緒にやろうか」というケースもあるでしょうし、睡眠や食事はアプリでログをつけることができます。プライバシーのことには気を遣いつつも、可能な限りそのデータを共有していくと、より効果は高まると思われます。

生活改善の習慣化は、「WHY(なぜ)」「WHAT(なにを)」「HOW(どうやって)」を考えていくこと大事なのですが、まだ深刻な体の不調や病気などの経験がないと「WHY(なぜ)」の動機が十分でない人もいます。特定健診でメタボ判定をもらっただけでは、あまり気にしない人も多いでしょう。

ですが、グループで情報交換することで「WHY」の動機が育まれることもあります。また、グループで「WHAT」「HOW」のアクション先行でスタートしてみることで、「食事を少し減らしてみたら体調がいい」「運動をはじめたらストレスも減った」という実感が生まれ、「WHY」の動機が生まれることもあり得ます。

職場は多くの従業員にとって1日の大半を過ごす場であり、人間関係の中心にもなる重要な場所です。企業が職場の人と人をつなぐ機会を設けることで、健康をはじめとする様々な課題解決ができるのではないでしょうか。

生活改善の習慣化は、紙に書き出すことでサポートできる

——古川さんの習慣化ノウハウで生活習慣を改善する場合、どんな点がポイントになると思いますか?

古川武士:まず、「あれこれ一気にやろうとしない」ことがポイントになります。運動が面倒くさかったり、食事は我慢が必要だったりと、おそらくみなさん精神的・肉体的なストレスを感じますよね。いきなり全方位的に取り組むと、すぐに嫌になってしまって習慣化どころではありません。「食事」「運動」「睡眠」「ストレスの緩和」のなかで、自分にとっての大きな課題や、取り組みやすい課題からはじめるといいでしょう。

コミュニティの実験を通じて、あらためて生活改善は連環していることを実感している次第です。例えば、運動習慣ができはじめると食事や睡眠の改善、ストレスの緩和にも自然とつながりますし、睡眠が改善されると運動のパフォーマンスが上がり心身がすっきりするなど、これもストレスの緩和につながります。ひとつの生活改善のアクションが、結果的に全体に影響するのです。

先にも述べましたが、「体調がいい」「体重が減った」「よく眠れて気持ちがいい」といったベネフィットを実際に感じることができると、なによりモチベーションが高まります。モチベーションが上がった時点で、アクションのレベルを上げていくと効果的だと思います。

また、「小さなことでも毎日続ける」ことも忘れないでほしいですね。例えば、前夜の仕事が忙しくて朝のウォーキングができなかった日があっても、会社までの道のりを少しだけ大股で歩いて負荷をかけてみるなど、意識を切らさないことです。

——「ストレスの緩和」という部分にスポットをあてると、いまいち習慣化の具体的なアクションのイメージが湧かないのですが、どのようなことが考えられますか?

古川武士:運動や睡眠など、ほかのアクションからも解決を図れると思いますが、それはあくまでも気分転換や生理的なアプローチです。ストレスの原因に直接関与するアプローチとしては、「自分の気持ちを紙に書き出して振り返る」というのも、改善に向けた習慣になり得ます。

わたしの専門分野であるコーチングには、「ABC理論」という認知行動療法に通ずるアプローチがあるのですが、これはひとことでいうと「認識の捉え直し」です。A(出来事)に対するB(認知の仕方)があり、その結果、C(感情)が起こります。B(認知の仕方)がネガティブだと、C(感情)は怒りや悲しみとなり、ストレスが起こるのです。

それを前提とすると、例えばBをポジティブにすれば、Cの感情もポジティブになり、ストレスはなくなるというわけです。これを自分で紙に書き出して、セルフメンテナンスする取り組みです。

例えば今日、上司との査定面談があって査定が低かった(A)とします。それを「頑張ったのに全然認めてもらえなかった」と認識(B)すれば、怒りや悲しみ(C)が湧いてくるでしょう。つまりそれは、ストレスを受けているということです。まずは、このA〜Cまでを書き出して認識し、ひとまず感情を吐き出すことが、ストレスへの対処で大切な手段です。

そのうえで、冷静になって認識(B)を違う角度で捉え直してみるのです。客観的に見てみれば、「相対評価は低いけれど、わたし自身は去年より成長しているな」とか「目標設定に対して努力の方向が合っていないことを指摘されたのであって、努力自体は否定されていない」などと気がつくことがあるはずです。すると、すべてがポジティブにはならないにせよ、Cの感情が変わり前向きな気持ちになることができます。

——感情に振りまわされないよう、紙に書き出して冷静に考えることが大切ですね。

古川武士:そうです。少し難しく伝えてしまいましたが、ストレスというのは、自分にとっての感情やストレス源を紙に書いて客観視することで軽減できますし、対策も見えてくるということです。

また同様に、「運動」「食事」「睡眠」における習慣化でも、週に一度程度でいいので自分の状況を紙に書いて整理することが有効です。以下のように、3つのポイントで整理してみましょう。

例)テーマ:食べ過ぎの克服

  • Good(よかった点):飲食店で注文する際、大盛りにせずにいられた。体重が500g減った
  • Problem(問題点):コンビニでお菓子を買って間食をしてしまう
  • Solution(解決策):コンビニに行くこと自体を禁じてみる。目の前になければ食べないはず

このような感じで、Good(よかった点)、Problem(問題点)、Solution(解決策)の3ポイントで習慣化の状況を記すのです。そうすることでベネフィットを自覚することができますし、いまの課題をあきらかにして、具体的に翌週の対策を立てることがでるでしょう。自分のやるべきことが見えて、漠然と行うよりはるかに達成の確度が高まると思います。

古川武士ふるかわ・たけし
習慣化コンサルティング株式会社代表取締役/米国NLP協会認定NLPマスタープラクティショナー

1977年、大阪府生まれ。関西大学卒業後、日立製作所などを経て2006年に独立。約5万人のビジネスパーソンの育成と1万人以上の個人コンサルティングの経験から「続ける習慣」が最も重要なテーマと考え、2007年に、日本で唯一の習慣化をテーマにした習慣化コンサルティング株式会社を設立する。オリジナルの習慣化理論・技術を基に、個人向けコンサルティング、習慣化講座、企業への行動定着支援の事業を開始。企業向けには、仕事の生産性を高める「高密度仕事術」を実施する。政府主導で行なわれている、「働き方改革」への取り組みとして多くの企業からオファーが絶えない。

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古川武士
古川武士ふるかわ・たけし
習慣化コンサルティング株式会社代表取締役/米国NLP協会認定NLPマスタープラクティショナー

1977年、大阪府生まれ。関西大学卒業後、日立製作所などを経て2006年に独立。約5万人のビジネスパーソンの育成と1万人以上の個人コンサルティングの経験から「続ける習慣」が最も重要なテーマと考え、2007年に、日本で唯一の習慣化をテーマにした習慣化コンサルティング株式会社を設立する。オリジナルの習慣化理論・技術を基に、個人向けコンサルティング、習慣化講座、企業への行動定着支援の事業を開始。企業向けには、仕事の生産性を高める「高密度仕事術」を実施する。政府主導で行なわれている、「働き方改革」への取り組みとして多くの企業からオファーが絶えない。

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