• ホーム
  • インタビュー
  • メンタルヘルス対策は、まだまだ不十分。従業員の「隠れうつ」に気づくための具体策

INTERVIEWインタビュー

メンタルヘルス対策は、まだまだ不十分。従業員の「隠れうつ」に気づくための具体策

中島輝なかしま・てる
心理カウンセラー/作家/自己肯定感アカデミー代表/資格発行団体 torie代表/自己肯定感の第一人者/肯定心理学協会代表

うつ病でありながらも、精神的な症状より疲労感、睡眠障害など身体的な症状が強いために、自分も周囲も気がつかない「隠れうつ」が若い世代に広がっている。そして、従業員とのコミュニケーションのオンライン化が進んだ結果、そのような症状に対する企業のケアが追いつかないことも、その問題に拍車をかけている。心理カウンセラーとして企業のメンタルヘルス対策にも取り組む中島輝氏が考える、「いま、企業がとるべきメンタルヘルス対策」とはどのようなものだろうか。

構成/岩川悟 取材・文/吉田大悟 写真/川しまゆうこ

メンタルヘルス対策における現在の課題

——心理カウンセラーとして企業のメンタルヘルス対策にも従事する中島さんから見て、企業のメンタルヘルス対策は十分に機能していると思いますか?

中島輝:わたしのクライアントの状況なども踏まえて忖度なくいえば……「まったく足りていないのではないか」というのが感想です。報道などでもよく見聞きしますが、コロナ禍を経て、それ以前より「うつ」の症状を訴える人が増加しており、その状況は深刻です。リモートワークの普及によって働き方も大きく変化し、以前より効率性が改善された側面もあるのですが、やはりコミュニケーションの手段が変わったことにより、これまでにないストレスを多くのビジネスパーソンは感じています。毎日出勤して従業員の顔色を見ることができたときはよかったけれど、人事・総務からすると目視による確認ができないことで、メンタルヘルスの課題はさらに困難になっています。

コロナ禍以前の段階では、厚労省の指針に沿って大企業を中心に一応のメンタルヘルス対策は普及したのですが、それも十分ではありませんでした。例えば、産業医カウンセリングの導入などの対策はあっても、多くの場合がメンタルダウンを起こしてからの対処療法であり、予防へのアプローチに具体的に踏み込んでいる企業は多くはありません。

それがいま、リモートワークの推進により「見ればわかる失調」にも気づいてあげることが難しくなっているのです。その結果が、すでにメンタルダウンを起こしているのに気づかれていない「隠れうつ」といった、新たな問題が生じている要因だと分析しています。そうした従業員にケアの手が行き届かなければ、最悪の事態に至ってしまう危険性もあります。

——そのような状況下で、どのような対策が求められるでしょう?

中島輝:社会全体で模索している段階にあると思いますが、わたし個人の意見でいえば、「メンタルトレーナー」にあたる存在が企業に必要とされていると感じています。

メンタルダウンが起きてからのケアではなく、あくまでも、起こる前の従業員に対する予防ケアが望ましいのですが、それをマネジメント職や人事・総務だけでタスクフォースを機能させることは難しく、専門家が指揮をとっていく必要があります。

プロスポーツの世界を考えてみてください。アスリートは、ケガをしてしまったらスポーツドクターに頼ります。これは企業のメンタルヘルス対策でいえば、産業医、あるいは心療内科の医師にあたり、多くの場合で、実際にメンタルダウンを起こしてから頼る存在です。

でも、アスリートには、マッサージ師やフィジカルトレーナー、栄養士など、心身に問題を抱えないよう事前にケアしながら、日々のパフォーマンスを支えてくれる専門スタッフがたくさんいます。企業のメンタルヘルス対策では、これに該当する存在がいないのです。

専門スタッフを入れれば、当然コストはかかるでしょう。しかし、メンタルヘルスの予防に取り組まなければ、最前線で働いていた従業員も休職を余儀なくされることだってあるはずです。あるいは閑職に異動となり、費やしてきた人材の育成コストも給与も企業として無駄になり、生産性に結びつかなくなってしまいます。

企業の大切な人的資本を守り、パフォーマンスを発揮させる「メンタルトレーナー」の導入は、まさに健康経営の具体策にもなると思います。

メンタルヘルス失調にどうやって気づくのか

——メンタルヘルスの予防ケアが行き届かない現状では、従業員それぞれが自分で気づけるようなセルフケアの重要性も感じます。実際の企業でのカウンセリングにおいて、中島さんはセルフケアについてどのような情報提供や指導を行っていますか?

中島輝:いろいろあるのですが、ここでは「うつ病チェックシート」と、予防につながるメソッド「4つの窓」を紹介します。まずは「うつ病チェックシート」からいきますが、以下の質問に対して「ここ2週間ほど続けて自分にあてはまる」と思うものにチェックを入れてみてください。

チェックが5個以下の人は問題ありません。心は健康な状態といえるでしょう。チェックが6個~8個の人は「少し心配なレベル」で、チェックが9個~12個の人は「かなり心配なレベル」です。13個以上あてはまる人は、うつ病を疑って専門医を受診してください。そのまま放置してしまうと希死念慮が強くなり、最悪の事態に至ることだってあり得ます。もちろん、このチェックシートですべてがわかるわけではありませんが、簡易的にチェックするには有効です。人事・総務で従業員に対するチェックを行う場合にも、ぜひ活用してください。

——うつ予防につながる「4つの窓」は、どのようなものでしょうか。

中島輝:チェックシートで「健康」であった人も、一時的にうつ感情に陥ることはあります。それが積み重なって、処理しきれないストレスに苛まれた結果、メンタルダウンにつながってしまいます。そこで、一時的なうちから、ぜひ以下のメソッドを習慣化してください。

人間の感情は複雑ではありますが、シンプルに分類すれば「快」か「不快」です。うつ病の発症につながる感情は「不快」であり、「気分がすぐれない」「やる気が起きない」という気持ちにとらわれます。

そんなとき、不快な感情にとらわれず、能動的に「快」につながる行動を取って迎え撃つことが大切になります。そこで、気分が落ちていても「快」を見つけやすくするのが、以下の「習慣or一瞬」「自力or他力」の掛け合わせである「4つの窓」です。

■「一瞬×他力」は、いまこの瞬間にできることで、他人や周囲のものを利用する方法

例:ショッピング、スイーツ、動画視聴、花を飾る、友だちへの電話など

■「一瞬×自力」は、いまこの瞬間にできて、自分の力で行うもの

例:散歩、筋トレ、瞑想、ストレッチ、掃除など

■「習慣×他力」は、習慣として長期で続ける、他力ではじめるもの

例:好きなアーティストのファンクラブに入る、新しい習いごとをはじめるなど

■「習慣×自力」は、習慣として長期で続ける、自力で行うもの

=「リフレーミング」という視点移動の習慣を身につけること

リフレーミングとは、ネガティブな感情を言葉でポジティブに変換する習慣です。他人にイラッとしたときに、あえて「ありがとう」と感謝し、感謝する理由を探す。あるいは、「無理だ」と感じたことをあえて「できる!」と思って方法を考えてみる。そういうふうに、ものごとのフレームを変えて、意識や視点をポジティブに転換する習慣です。

セルフケアとして実践し、コツや効果を実感したら、同僚など周囲の人にも伝えてあげてください。

職場のなかで「感情を発露する場」を設ける

——「メンタルトレーナー」のことや「4つの窓」など、メンタルダウンを防ぐための施策を伺いましたが、人事・総務などが社内リソースで効果的に実践できることはありますか?

中島輝:みなさんは「ピアコーチング」をご存じでしょうか? 「ピア(peer)」は上下関係のない横のつながりを意味し、「コーチング」は傾聴や質問によって相手に道を示すコミュニケーションを指します。

わたしも、自分の会社のスタッフやクライアントに対して実施していますが、1on1の形式で自分が最近感じたことや、楽しい、悲しい、腹が立ったなどの感情を人に話す場をつくるのです。心のなかに溜めていたものを発散することで、モヤモヤが溶けていくようなすっきりとした実感を得ることができます。

しっかりした1on1の時間が取れなければ、チームミーティング後にほんの数分でも構いませんので、マネージャーが話し相手となり、部下の話を聞く機会をつくってみるといいでしょう。難しく考えず、「最近あったことを好きに話してもらい、肯定的に聞く場」としてください。

リモートワークの普及にともない、ツールを使ったテキストベースのコミュニケーションが仕事でも増えていますよね。そのぶん、声の会話で得られる心の解放感や安堵感など、カタルシスは大きいと思います。

「先週、子どもがインフルエンザにかかって大変だったんです」といった何気ない日常会話ができる場を設けることで、先に説明した「4つの窓」でいう「習慣×他力」としての不快の解消が期待でき、お互いの理解が深まるでしょう。また、メンタルダウンの予兆も、早めに察知できるかもしれません。

ただし、こうしたアプローチを組み合わせ、どのようなかたちでのメンタルヘルス対策が最適かは、会社の組織形態や年齢構成、メンタルの状況などによって異なります。また、メンタルヘルスの失調は、たとえ顕在化していなくても、社内の人にそれを知られることに抵抗を覚えてしまうセンシティブなものです。

だからこそ、第三者の立場でメンタルヘルスの予防的なアプローチを提案・実行できる「メンタルトレーナー」の存在が、多くの企業で一般的になることを願ってやみません。

中島輝なかしま・てる
心理カウンセラー/作家/自己肯定感アカデミー代表/資格発行団体 torie代表/自己肯定感の第一人者/肯定心理学協会代表

茨城県生まれ。心理カウンセラー。「トリエ」代表。「自己肯定感アカデミー」代表。心理・学脳科学・NLP等、特にアドラー心理学を使い独自の自己肯定感理論を世に広め、126以上のコーチングメソッドを開発。Jリーガー、上場企業の経営者など1万5000名以上のメンターを務める。現在は「自己肯定感の重要性をすべての人に伝え、自立した生き方を推奨する」ことを掲げ「自己肯定感アカデミー」や 自立した生き方探求「輝塾」の運営等、広く中島流メンタル・メソッドを啓蒙し「自己肯定感カウンセラー講座」「自己肯定感コーチング講座」「アドラーメンタルトレーナー講座」などを主催する。自己肯定感ブームをつくった第一人者。

問い合わせる
中島輝
中島輝なかしま・てる
心理カウンセラー/作家/自己肯定感アカデミー代表/資格発行団体 torie代表/自己肯定感の第一人者/肯定心理学協会代表

茨城県生まれ。心理カウンセラー。「トリエ」代表。「自己肯定感アカデミー」代表。心理・学脳科学・NLP等、特にアドラー心理学を使い独自の自己肯定感理論を世に広め、126以上のコーチングメソッドを開発。Jリーガー、上場企業の経営者など1万5000名以上のメンターを務める。現在は「自己肯定感の重要性をすべての人に伝え、自立した生き方を推奨する」ことを掲げ「自己肯定感アカデミー」や 自立した生き方探求「輝塾」の運営等、広く中島流メンタル・メソッドを啓蒙し「自己肯定感カウンセラー講座」「自己肯定感コーチング講座」「アドラーメンタルトレーナー講座」などを主催する。自己肯定感ブームをつくった第一人者。

問い合わせる