新しい時代のリーダー像。「戦略的いい人」になるための3つのポイント
「従来型のマネジメントでは通用しない」として、Z世代の部下へのマネジメントに苦慮する管理職やリーダーは多い。一般に、Z世代の価値観は多様であり、かつての上下関係の常識やスパルタ教育、強権的なコントロールは非合理なものとして敬遠されるからだ。人事戦略コンサルタントとして活躍する松本利明氏に、自身が推奨するいま求められる新しいリーダー像「戦略的いい人」について解説してもらった。
構成/岩川悟 取材・文/吉田大悟 写真/石塚雅人
これからの時代に求められるリーダー像は「戦略的いい人」
——40代、50代のマネージャー層で「Z世代の若手とのコミュニケーションがうまくいかない」「指導をしても嫌われてしまい、マネジメントにならない」という声が多く聞かれます。この状況を、松本さんはどう見ていますか?
松本利明:2000年頃までのリーダーは、バブル崩壊後であっても新卒入社組の社員が年功序列で上位職に就くことがあたりまえでした。年功序列以外の昇格判断の材料が当時はまだ少なかったからです。加えて、「目上の者の命令は絶対」という道徳もまだありましたから、リーダーの人格や適性、能力に難があっても、部下は従う他ありませんでした。
やがて、経済の陰りが決定的になり始めた2000年以降は、年功序列だけで昇格を決めるのではなく、若くても実力や実績のある者がリーダーとして抜擢される機会が増えてきました。しかし、向上心が高く仕事はバリバリできても、部下への対応が苛烈でハラスメントが問題になったり、地位に踊らされて品位を見失ったり、本人は真摯に取り組んでいるつもりでも部下を疲弊させて潰してしまったりするなど、強過ぎる姿勢が問題になるケースもありました。
様々な問題はあったものの、それでも強いリーダーシップは統率力が高く、いい面もあったのです。ですから、こうしたリーダーのもとで部下として過ごした世代は、自分のなかに多かれ少なかれ強いリーダー像があるはずです。しかしながら、現代のマネジメントに対するニーズと噛み合っていない可能性が考えられます。
いまや、Z世代に限らず従業員のハラスメントや働き方に対する社会規範は変化し、報酬よりも成長や働きがいを求めるなど価値観は多様化しています。それに合わせて求めるリーダー像も変化しているのです。
いま、マネジメントがうまくいかないリーダー、とりわけ年代が高い層では、これまで自分が経験してきたリーダー像は一度捨てて、いま求められるリーダー像を理解し、そのように振る舞うことが重要ではないでしょうか。
——以前であれば、「誰より能力が高い、強いリーダー」が求められていましたが、いまはどのようなリーダーが支持されるのでしょうか?
松本利明:いま企業に求められるのは「能力が高い、強い」というだけではなく、「この人についていきたい」とまわりが認め、評価するリーダーです。それは、従業員にとっては、自分を成長させ、気持ちよく働ける環境を与えてくれるリーダーであり、むしろ部下がリーダーを応援し協力してあげたくなる存在といえます。また、企業にとっては、組織のパフォーマンスと従業員のエンゲージメントを高め、人材基盤を強固なものにしてくれるリーダーといえるでしょう。
そんなリーダー像の表現には様々な捉え方があると思いますが、わたしは「戦略的いい人になりましょう」と伝えています。
——「いい人」というと、どこか「頼りない人」と同義にも感じますが……。
松本利明:確かにそうですよね。「いい人」というと、まわりに利用されて損をするとか、褒めるところがないので「真面目」や「いい人」といわれているような、弱いイメージを持つかもしれません。そうではなく、「いい人」の強い面を「戦略的」に取り入れるのです。
ここでいう「いい人」とは、
- コンプライアンスに引っ掛かることやハラスメントを与えない
- 「強み」だけではなくリーダー自身の「弱み」を隠さない
- まわりから応援や協力を得ながら組織をまとめる
その結果、組織の目標もメンバーの成長も達成「させて」しまうような、新しいリーダー像なのです。
元TOKIOの城島リーダーのように、個性の強いメンバーを対立させず、誰もが自然体でまとまり、協力を取り付けてしまうようなイメージですが、ビジネスにおいては「それだけ」では足りません。仲良し集団になるだけではなく、目標達成には、「戦略的」な要素が必要です。ただし、優しさや甘さを装って厳しい要求をするような策士に見えてしまうと、まわりは腹黒さを感じてドン引きします。
そこで、戦略的に人をマネジメントする「いい人」の基本姿勢は、一貫して「与える人」になることです。部下とのコミュニケーションは勇気を与え、相手の資質を見て成功できる仕事を割り振り、合理的で無駄なことをさせず労力を奪わず、部下によろこんで自走させてしまう――そんなリーダーであるよう、意識的に振る舞うことが大切です。
そのためのポイントはたくさんあるのですが、ここでは部下への業務指示やフィードバックなど、コミュニケーションで「戦略的いい人」になるための3つのポイントについてお話します。
部下の視点に立ったコミュニケーションを重視する
——ポイント❶の「できるようにしてくれる人」のコミュニケーションとは、どのようなものですか?
松本利明:いかにリーダーが能力面で優秀でも、「自分にしか理解できない話をする」、あるいは「自分にも他人に厳しく、指示の難易度が高い」のでは、部下に余計なストレスを与え、適切に仕事をしてもらうことができません。つねに部下の視点に立ってコミュニケーションと仕事の配分を考え、成功体験を積ませて成長させるリーダーが求められます。
——具体的な業務指示やフィードバックはどうあるべきでしょう。
松本利明:部下から仕事で行き詰まっている点やクリアできないことを相談されたとき、現場経験の豊富なリーダーはこと細かに正解の手順を語ってしまいがちです。そして、「いまのは一例だから、自分なりに工夫してみて」といい、考える余地を残した気になってしまいます。
よく、「正解を指示してしまうと、指示に頼り切る指示待ち人間をつくる」ことが問題だとされますが、それ以前の問題があります。長々とプロセスを指示すると、部下はそれを覚えるだけで手一杯になってしまいます。リーダーは全体像が見えているから細かなプロセスと成果への因果関係をこと細かく解説できますが、大量の手順を長々と語られると部下の理解度はオーバフローし、理解も暗記もおぼつかなくなります。
しかし、部下からすれば上司の指示に逆らうことはできず、「よくわからない」と伝えると、もっと大量の細かい指示が振ってくる悪循環を恐れます。こうなると選択肢は「わかりました」というしかなく、「よくわからないから、理解したまま実行する」か「理解度不足で結局は行き詰まる」という結果になってしまいます。
大前提として「正解の手順」があるのなら、それはリーダーがノウハウとしてアドバイスをするのではなく、先に書面で説明するか、普段から事例またはマニュアルとしてスタンダードを確立し、共有しておくことが大切です。
そのうえで、リーダーが部下にアドバイスするべきことは、その手順を高効率で効果的にこなすための「コツ」です。例えば、オセロで勝ちパターンを何百通りも教えることは非効率ですが、「四隅を押さえればたいていの初心者には勝てる」というコツを教えれば、部下は「やれる感」を掴むことができるため、自身の頭で考えられるようになり、PDCAサイクルも回せるようになります。結果、みずから自信を得て、自分で考え成長していきます。「スタンダード」と「コツの伝授」を切り分けることで、リーダーのフィードバックは恩恵あるものになるのです。
——これは、リーダーが部下を置いてきぼりにして一人語りすることが原因でしょうか?
松本利明:いえ、以下のように部下の疑問に真摯に答えているつもりでも、実はただの手順の説明に過ぎないこともよくあります。
これもただの作業指示を細かく伝えているだけなので、お互いに無駄なフィードバックの時間を割くことになっています。それよりも、「闇雲に30件アタックするのではなく、以前はイベントに参加していた企業を狙うのはどうかな。参加しなくなった理由を聞き出し、『今回はその問題が解決されている可能性がある』といってアポを取ろう」と、目的を達するためのコツやアイデア、裏ワザ、多角的な視点を伝える場にするのです。
このほうが、部下も「ああ、アタック先の質を考えたうえで、数を追うことが重要なんですね」と気づきを得ることで、自分の頭で考え、コツを活かすことができますよね。コツを知ることで、部下は次に似たような場面では指示を仰がずに、みずからコツを応用できるようになります。結果、「相談した甲斐がある」となり、リーダーとしての価値は高まるのです。
心理的安全性の高いリーダーに人はついてくる
——ポイント❷の「未来や可能性を感じさせてくれる人」というのは、ビジョンを語るリーダーという解釈になりますか?
松本利明:「リーダーはビジョンを語ろう」とアドバイスをするコンサルタントはいますし、よく聞く話です。しかし、経営層や事業部長レベルのリーダーならともかく、現場リーダーがビジョンを語ることにわたしは懐疑的です。企業のビジョンを現場レベルの行動指針に翻訳することは大切ですが、現場リーダーがビジョンを語って部下の心に響くほど信頼を置かれているのなら、はなから苦労はありませんよね。
ここで伝えたいことは、「この人と一緒にいたら未来が開けそうだ」「この局面を乗り切れそうだ」というポジティブな空気を、コミュニケーションによってつくっていくことなのです。ただし、それは必要以上にポジティブな言葉を使ったり、チャレンジングな精神論を振りかざしたりすることではありません。ひと言でいうなら「希望を与えてくれる」ことです。
必要なことは「解決思考(ソリューション・フォーカス)」です。部下から業務の相談を受けた際に、「なぜ、そうなったのか(Why)」で問題や原因を掘り下げることから入るのではなく、「どうすればできるか(How to)」で解決策を話し合うスタンスを指します。
前者の「なぜ、そうなったのか(Why)」は原因追求であり、基本的に部下の失敗や問題点を掘り下げることになりますから、心理的にストレスを感じることも多いでしょう。部下は「できなかった」「わからなかった」という負い目のある状況で、上司から「詰められた」と感じると、心理的防衛にスイッチが入ります。つまり、思考や心を閉ざしてしまうのです。それが常態化すると部下の心理的安全性が損なわれ、最終的に問題解決できるとわかっていても、リーダーに相談することがつらくなっていくのです。
一方、「どうすればできるか(How to)」は、部下のアクションを責めることなく、建設的かつ未来思考の話し合いができます。すると、心理的安全性を保ったまま問題解決ができ、リーダーに対する信頼が高まっていきます。
「遅刻の言い訳はたくさん思いつくけど、どうすれば間に合うかを考え、その通りにしたら間に合った」ということと同じです。できなかった言い訳や原因を探すより、どうすればクリアできるかを考え、その策のなかで一番スジのいいものを選び、そこに立ちふさがる課題や原因を取り除けば、現状を打破できるのです。
有名な「2:8の法則(パレートの法則。成果の8割は全体の2割の要素によって生み出されるという法則性)」でいわれるとおり、価値ある「2」に集中し、結果に繋げる視点で考えるのが解決志向(ソリューション・フォーカス)であり、海外や外資系企業ではあたりまえの問題解決技法なのです。
また、「どうすればできるか(How to)」のアプローチは、まだ解決策がない新しいチャレンジに対して有効です。例えば、新しいことにチャレンジして壁にぶつかったのに「なぜ、そうなったのか(Why)」と原因を掘り下げても、既存の方法論では解決できないことがありますよね。既存の方法論を取り払って「どうすればできるか(How to)」を考えることが、これまでにないノウハウを生み出し、あるいは新しいビジネスのヒントになり得るわけです。
——ポイント❸の「笑顔や感謝を与えてくれる人」は日頃の接し方ですね。
松本利明:そうですね。リーダーのコミュニケーションでは、「褒め方」「叱り方」「コーチング」などがお題目として挙がります。それらはテクニックとして効果的かもしれませんが、それに頼ると胡散臭くなってしまいかねません。
リーダーとして部下の信頼を得たければ、まずテクニックを考える前に、マインドが重要です。部下をひとりの人間として尊重すること、その存在や日々の努力に感謝することが大切で、そこから自然と取るべき行動は決まってくるのではないでしょうか。
例えば、「挨拶」や「相手の名前を呼んで話す」こと、「相手の目を見て話す」「笑顔を向ける」など、人間として相手を尊重する振る舞いは、相手に「ここに自分が存在することが認められている」と感じさせ、心理的安全性を高めます。逆をいえば、これをないがしろにしていると、いくらテクニカルなコミュニケーションをしても、空々しいのです。
また、相手の心に響く一番の言葉は「感謝」ですから、積極的に伝えていきましょう。しかし、「ありがとう」ばかり言い続けているのも違和感が生じます。そこで、「いつも早めに帳票を出してくれて嬉しいよ」「このあいだの気遣いに感激した」など、自分の喜びの気持ちを伝えることを大切にするといいでしょう。それらが、「ありがとう」に代わる感謝のメッセージとなります。どんな行動に対し、自分が感謝したのかを伝えてあげると、相手は「このような行動をすると喜んでくれるのだな」と記憶し、もっと喜んでもらうために、その行動を繰り返しおこなうようになったり、応用を効かせたりするなど、好循環が生まれます。
「自分で考えられない」部下をあきらめない
——「コツ」や「可能性」、「感謝」を与えてくれる「戦略的いい人」のイメージの一端が掴めました。一方、先に「正解を指示してしまうと、指示に頼り切る指示待ち人間をつくる」ことにも言及されていましたが、「与えること」と「自分で考える成長」は相反しないのでしょうか?
松本利明:多くの方、特に年齢層が高い方から「自分で考えなくなってしまうのではないか?」という懸念や、「厳しさを与えたほうがいいのでは?」という疑問をいただきます。極端な話、「自分で考えられる人」はどのようなコミュニケーションでも自分で「気づき」を得るので、アドバイスを因数分解して解釈し、自分らしく工夫して伸びていきます。モチベーションを下げないようにしてあげればいいだけなので、問題はないでしょう。
一方、「自分で考えられない人」は、考えられないのではなく、与えられた情報をもとに、どう考えていいのか、その捉えどころかわからないのです。よって、曖昧なヒントを与えて考えさせようとしても、困ってしまうのがオチです。結果として、リーダーに詰められているように思えて防衛本能が働き、仕事の問題解決よりも「いま、この場をどう切り抜けるか」のほうが大きな問題になってしまいます。それに関しては、厳しい接し方をするのも同様ですね。お互いに無駄な時間です。
——モチベーションの高い企業で定番となっていた、「あなたはどうしたいか?」を問うリーダーのフィードバックも、「Z世代にははまらない」という声が多く聞かれます。
松本利明:それも世代というより、個の問題です。自分に自信があり、自律的に考える部下に対しては機能しますが、そうでなければ困らせるだけですよね。それだったら、正解のプロセスを示し、さらに思考を深めるヒントとして「コツ」を与えることで、部下の思考が広がるきっかけを提供するほうが確実です。
もちろん、「自律的に考えられないままでいい」ということではありません。正解のプロセスやコツを示し、自分でも「できる感」を持たせ、実際に成果を出しながら、その知見を水平展開や応用できるようにさせることが重要です。
さらに、自律的に動けるようにするには、もうひとつコツがあります。自分の仕事や役割の意義をみずから自覚させることです。これは、部下への問い方を変えることでできます。「その仕事をすることで、顧客にどう喜んでもらうの」「どんな『ありがとう』をもらえるの?」と、顧客視点で考えさせるといいでしょう。
もしくは、「その仕事を成功させると、世の中や業界にどんな影響がおこるの?」とか、「部門にどんなインパクトを与えるの?」と問いかけることで、部下は自分の言葉で仕事や役割の意味に気づき、見出せるようになります。結果、自律的に考え、動けるようになるのです。
画一的に厳しく接して「できる人だけができればいい」というのでは、組織全体のパフォーマンスはマイナスに向かっていくのが目に見えています。いまの時代のリーダーは、自分の価値観や経験を徹底するのではなく、それを脇に置き、部下の気持ちや視点に寄り添い、その視点から「響く」ことの問いかけや指導することです。
かつてのように「上司=偉い・優秀」と部下に認めさせるのではなく、一緒に旅をする仲間のように関わり、上司も自分が不完全で成長途中であることを受け入れるのです。虚勢がなくなり、穏やかな気持ちで、旅の仲間とみんなで成長するスタイルが、いまとこれからの時代に求められるリーダー像といえます。