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「日本のおじさん」は世界一孤独? 健康寿命にも大きく関わる孤独の防ぎ方

岡本純子おかもと・じゅんこ
コミュニケーション戦略研究家/コミュ力伝道師/世界最高の話し方を教える「家庭教師」/株式会社グローコム代表取締役社長

「孤独は差し迫った健康上の脅威である」——2023年、世界規模で孤独の問題に対処する「社会的つながりに関する委員会」の発足にあたり、WHO(世界保健機関)は孤独の健康リスクを明言した。さらに、コミュニケーション戦略研究家であり、『世界一孤独な日本のオジサン』(KADOKAWA)の著者でもある岡本純子氏は、「日本の中高年男性は世界一孤独になりやすく、その原因はコミュニケーション能力と関係構築への無頓着にある」という。企業が従業員のウェルビーイングを実現するうえで、もはや意識せざるを得ない問題になっている「孤独」について解説をお願いした。

構成/岩川悟 取材・文/吉田大悟 写真/塚原孝顕

世界でもっとも孤独な日本人が「孤独による死」を知らない

——岡本さんは「コミュニケーション戦略研究家」の肩書きの他に、「おじさんの孤独研究家」という変わった肩書きもお持ちです。なぜ、中高年の孤独を研究されているのでしょう?

岡本純子:わたしはいまでこそコミュニケーションの専門家をしていますが、かつては人前に立つことも、知らない人と話すことも苦手でした。そのため、アメリカに渡ってコミュニケーションを学んだのですが、その際、「孤独」が人間の幸福や健康にマイナスの影響を与えるという研究成果を知ったのです。

特に、人間の幸福が、お金や仕事の充実などではなく、「人とのつながり」によって決まるということは、当時のわたしにとって衝撃的なものでした。都市化によって地域コミュニティが消失し、宗教的なつながりも薄れていくなかで、世界中で孤独問題が「現代の伝染病」として大きく取りざたされるようになっていたのです。

日本においても、これは危機意識を持つべきテーマに違いありません。孤独とコミュニケーション能力は表裏一体であり、コミュニケーションを専門領域とするわたしにとっても関心の高いテーマでした。コミュニケーション修業を終えて日本に帰国してびっくりしたのは、孤独に対して肯定的な書籍やコンテンツが溢れ返っていたことでした。「孤独を楽しむ」「孤独はかっこいい!」「孤独に生きろ!」といった前向きな言葉が並んでいたのです。その衝撃が、孤独問題について深堀するきっかけとなりました。

もともと、新聞記者時代から経営層を中心とした中高年男性との仕事の機会が多かったこともありますし、また、コミュニケーションの専門家として「話し方の家庭教師」をしており、多くの中高年男性の方々と、ときにお酒を酌み交わしながらその悩みを伺ってきました。そのなかで、男性と女性では、コミュニケーションや人付き合いのスタイルが異なることに気づいたのです。そして、中高年男性は孤独になりやすいことを記事にまとめたところ、書籍化のお話もいただき、「おじさんの孤独研究家」の肩書きが誕生したというわけです。とはいえ、実はもう、その肩書きは使っていないのですが……。

——孤独が人生の幸福だけでなく、健康にも影響するとのことですが、詳しくお聞かせください。

岡本純子:日本では「孤独死」は話題になっても、「孤独による死」はあまり話題にされません。欧米では、孤独の健康リスクは主要メディアで大きく取り上げられ、社会問題として高い関心が持たれています。データに表れにくい、長期的な死因となる「現代病」として孤独を扱っているのです。アメリカでは、2017年に元公衆衛生局長官が「孤独は深刻化する伝染病だ」とする論文を発表して話題になりましたし、イギリスでは2018年に政府が「孤独担当大臣」を新設。それを受けて、2021年には日本でも担当大臣が設置されました。

アメリカの研究によれば、孤独に陥ると持続的なストレスが心身に負担をかけ、その影響はたばこを1日15本吸うことに匹敵するといわれています。さらには、心臓発作のリスクを32%上昇させるという研究もあります。また、ハーバード大学の精神医学の権威であるロバート・ウォールディンガー教授とブリンマー大学のマーク・シュルツ心理学教授の研究では、慢性的な孤独感があると、免疫機能は抑制され、脳機能は低下し、睡眠の質も悪化するなどの現象から、高齢者の1年あたりの死亡率を26%高めると結論づけています。

こうしたエビデンスは星の数ほどあり、孤独の健康リスクは世界的な学術的常識となっています。そのうえで、世界でもっとも孤独が深刻な国は日本です。OECD(経済協力開発機構)の2005年の調査によれば、「社会集団における友人、同僚、他人と時間を過ごすことのない人」の割合は、先進国21カ国の男性のなかで日本が一番高かったのです。

コミュニケーションと人付き合いの男女差

——なぜ、中高年男性は孤独になりやすいのでしょうか。

岡本純子:コミュニケーションに苦手意識を持つ人が多いということなどが要因ですが、それには重層的な理由があります。

まず、日本独特の労働環境が挙げられます。かつては仕事一筋で自宅と会社しか居場所がないというような人は少なくありませんでした。役職、年齢、社歴による上下関係のつながりでは、仕事を介在した信頼関係はつくれても、プライベートで信頼して付き合える関係性にはなかなかなれません。

また、「男らしさ」も円滑な交流の阻害要因となります。女性は「つらい」「悲しい」「さみしい」という弱さを人と共有し、心を繋いで支え合うことに長けている人が多いのですが、中高年の男性は多かれ少なかれ、「弱さを見せてはいけない」といった教育や文化の影響を受けています。語弊があるかもしれませんが、いわゆる「女々しい」ことを避ける傾向にあるのです。

逆に、いまの若い世代は男性同士でディズニーランドに遊びに行ったり、お茶をしたり、スイーツを食べたりすることに抵抗が少ない印象ですが、「男らしさ」を植え付けられた世代には違和感があるようで、眉をしかめます。「男らしい交流」は女性に比べて選択肢が少ないように感じます。

——確かに、喫茶店や旅先などでプライベートの男性同士が語り合う姿を見る機会は、女性に比べると圧倒的に少ないように思えます。

岡本純子:アメリカの心理学者であるトーマス・ジョイナー氏の著書『Lonely at the top: The High Cost of Men's Success』によれば、子どもの頃から男性はスポーツやゲームなど、興味あるものを介在して交流を図る傾向にあるそうです。そのため、人に対する気遣いの必要が少なく、関係維持に熱意を注がないとされています。

一方の女性は、一般論ですが、子どもの頃から相手の表情や言葉から感情を読み解き、気遣いながら共感関係を構築・維持することが訓練されています。また、グループであれば、そこで働いている複雑な力関係なども汲み取って対応する力に長けている人も多いのです。わたしはいつも、「一杯のコーヒーだけで、たいていの女性と地球が滅びるまでずっと会話を続けることができる」といっていますが、男性にはよく驚かれますね。

歴史的に見ても、男性に求められたのは、狩りで獲物を得て、戦争で敵を打ち倒す「競争力」「腕力」であり、「おしゃべり」などのコミュニケーション能力はあまり重要ではありませんでした。女性の場合は、他のコミュニティに嫁ぎ、そこで周囲の支援を受けて家事や子育てなどの生産活動を行うため、コミュニケーション能力は必要不可欠だったことと無関係ではないでしょう。

しかし、男性が女性に比べて先天的にコミュニケーション能力で劣るというわけではないと思います。仕事では饒舌にコミュニケーションをとる人は多いですし、文化的な背景もあるかもしれませんが、中東や南アジアなどでは男性がとても「おしゃべり」で、男性同士でずっと話し続けていることは珍しくありません。人とのつながりも、コミュニケーション能力も、意識とトレーニング次第なのです。

「見知らぬ人以上、友だち未満」の関係性を大切にする

——具体的な質問になりますが、中高年男性の孤独化を防ぐためにはどうしたらいいのでしょうか?

岡本純子:オックスフォード大学の人類学者であるロビン・ダンバー氏が大学生に対して行った調査では、男性の場合は、サッカーを観たりプレーしたり、一緒にお酒を飲んだりするといった、いわゆる共通体験がないと関係を維持できないと結論付けています。女性に比べて、「つながりをつくるためのハードル」が極めて高いといえるでしょう。

だから、意識的にいまある「つながり」を大切にし、できれば新しいつながりをつくることにもチャレンジしてほしいのです。そこでわたしは、「家族」「肩書き」「会社」の3Kに依存するのではなく、「趣味」「仕事」「知り合い」の3Sを大切にすることをおすすめしています。「べったり」と依存し合う関係ではなく、薄い関係性でも、「誰かが自分の話を聞いてくれている」その感覚だけで、人は幸せを感じるといわれています。

会社や取引先の人たちと世間話ができる関係性、趣味の教室やコミュニティとの関係性、あるいは、日常のなかで足を運ぶカフェや理容院のスタッフとの関係性、通っているジムの知り合いとの関係性などを意識的に維持し、「見知らぬ人以上、友だち未満」のゆるやかなつながりを大切にしてください。

ここで、こういう話をすると、「ひとりが気楽だ」「人間関係は煩わしい」とおっしゃる方がいらっしゃり、この本の執筆当初、多くの方から「孤独のなにが悪い!」と大いに反発を受けました。そういった理由で、「おじさんの孤独研究家」の看板は引っ込めたわけです(笑)。

英語では気楽に自分時間を楽しむ「Solitude」と、絶望的で不安な「loneliness」はまったく別物です。ひとりで楽しい「個独」は奨励されても、ひとりで誰も頼る人もいない、長期間、誰とも話すことができないという「孤毒」は美化されるべきではないでしょう。人間はそもそも「社会的動物」です。群れのなかで生き抜いてきた動物ですから、そうした群れからはぐれた「孤毒」の状態は決して健全とはいえないわけです。

社会とのつながりは多面的で、蜘蛛の巣のように広がっています。しかし、孤独を感じてしまうと、蜘蛛の巣を断ち切るように、どんどん人間関係は縮小してしまいます。なぜなら、厭世的になって自ら社会を拒絶してしまうようになるからです。一度そうなると、社会復帰は困難を極めます。ですから、たとえ弱いつながりでも、それを維持することが大事です。

——企業として、この孤独の問題解決に向けて取り組むべきことはあるでしょうか?

岡本純子:ひとつは、孤独の問題を啓発することですが、かといって企業が外でのコミュニティや趣味づくりまで直接的にサポートすることは違和感があり、実際には難しいかと思います。それよりも、まず会社内でのコミュニケーションや人間関係を円滑にし、社員のコミュニケーション力を上げることから始められるのではないでしょうか。結果的に、企業の事業活動にとっても直接的なメリットになりますから、コミュニケーション研修や社内交流のイベントなどもいいでしょう。

日本の多くの社会問題の根源に「孤独」があります。社会とうまくコミュニケーションが取れないことから貧困状態に陥り、人とうまくつながれないことでいじめのターゲットとなり、そうした行き場のない不満が虐待やDVといった問題にも発展していきます。「人と人との豊かなつながり」があってこそ真のウェルビーイングが実現できるという認識がもっと広がってほしいですね。

岡本純子 おかもと・じゅんこ
コミュニケーション戦略研究家/コミュ力伝道師/世界最高の話し方を教える「家庭教師」/株式会社グローコム代表取締役社長

1967年、神奈川県生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、英ケンブリッジ大学国際関係学修士を修了。米MIT比較メディア学客員研究員。読売新聞経済部記者、電通PRコンサルタントを経て、現職。日本を代表する大企業や外資系のリーダーなど「トップエリートを対象としたプレゼン・スピーチなどの話し方のプライベートコーチング」に携わる。その「劇的な話し方の改善ぶり」と実績から「伝説の家庭教師」と呼ばれ、数多くの研修・セミナー実績を持つ。2022年、企業PRの知見や、米NYで学んだグローバルスタンダードの最先端ノウハウをもとに、次世代リーダーのコミュ力養成を目的とした「世界最高の話し方の学校」を開校。

岡本純子
岡本純子 おかもと・じゅんこ
コミュニケーション戦略研究家/コミュ力伝道師/世界最高の話し方を教える「家庭教師」/株式会社グローコム代表取締役社長

1967年、神奈川県生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、英ケンブリッジ大学国際関係学修士を修了。米MIT比較メディア学客員研究員。読売新聞経済部記者、電通PRコンサルタントを経て、現職。日本を代表する大企業や外資系のリーダーなど「トップエリートを対象としたプレゼン・スピーチなどの話し方のプライベートコーチング」に携わる。その「劇的な話し方の改善ぶり」と実績から「伝説の家庭教師」と呼ばれ、数多くの研修・セミナー実績を持つ。2022年、企業PRの知見や、米NYで学んだグローバルスタンダードの最先端ノウハウをもとに、次世代リーダーのコミュ力養成を目的とした「世界最高の話し方の学校」を開校。